ぞりんばれんと 時にはシリスネの話を[3/4] 忍者ブログ

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時にはシリスネの話を[3/4]

暗いキッチンに灯をともし、小鍋を開けるとスープが待ち構えていた。
うっすらほどよく油分の浮いた、薄黄透明のスープのなかに、小さく切ったベーコン、ニンジン、ジャガイモ、上出来ではないか。
シリウスは、プリンのうまさから野壺に突き落とされた味覚の口直しにと、杖の先から青い火をさし、かまどを温め始めた。
いざ器に装わんとしたとき、キッチンの戸が静かに開けられた。
よりによらなくても、スネイプが入ってきて、滑るように鍋の元まで歩いてくる。
シリウスはおたまを剣のように構えた。
「何しに来やがった!」
スネイプは冷静そのものでシリウスの手からおたまを抜き取り、ボウルもいただき、ごく普通に席についた。
指差しひとつで棚からスプーンをとりだし、片手で前髪を耳にかけながら食事を始めた。
おたまが手の中に返されていたことにはっと気づいて、シリウスはモリーが出してくれていた二つ目のボウルに、スープを流し入れた。
コンソメがふわりと香る。

「それオレが最初にとった器奪うな! 返せ!」
新しく装ったスープを突き出す。
「交換すりゃ問題ないだろが」
「もう口をつけたが」
「お前だってオレが食ったプリン食べたろ!」
「気持ちの悪いやつだな」
本当に気分が悪そうな顔でスネイプが言った。
「キスした仲だろ! あ てかオイなんでキスしやがったッ!」
不思議そうな顔でスネイプはシリウスを見つめていた。頭の中が見透かされたような気分になる。
「なんか言え!」
スネイプは面倒くさそうに眉をひそめた。
「オブリビエイト」
「そういうことじゃねーし!」
シリウスは、はたと停止した。
宙に目を泳がせて、何が消されたか、最近の記憶を手繰っているようだ。
「あ」
急に表情を消す。
「いっこ聞いていいか」
「いやだ」
シリウスは、綺麗な蝶が不気味な毛虫に変身のを見たような顔になった。
「お前、学生時代、レギュラス知ってただろ。あいつが、学校上がってからどんなこと考えてたか、わかるか」
「答える必要がない」
「オレは一応、あの子の兄だったんだ」
スネイプはいまいましげに深いため息をついた。

「何を今更」
独り愚痴のように呟いてから、けれど顔を上げてしっかりとシリウスを見据えて言った。

「あの子がどうなったか、我輩は全く知らない。知っていたとしても、お前なんかが知る権利はないし、今更知ってもどうしようもない」
シリウスは目を見開き、ひどくうちひしがれたように見えた。
だが、ゆっくりとスネイプの向かい側の席に腰を落とし、かすれた声で言った。
「お前に聞いてよかったよ」
ぬるみ始めたスープを一口、ボウルから直接飲んだ。

スネイプは不快げに下を向いた。
レギュラスの遺体は見つけられていない。
あの子は、いつもお前の背中を追っていたよ。

シリウスが飲み下すのを待って、スネイプは洗い場に立った。
ひゅんと鼻先を掠めたスープボウルを追いかけて、シリウスはスネイプの背後から腕をつかんだ。
「オレがやる」
「べつにいい」
「お前まだ学校に仕事あんだろ」
「皿の一枚二枚で大差あるまい」
「二枚目のオレに任せておきゃいいんだよ」
「二枚目犬、三枚割りてそれでお仕舞い」
「んとにまだるっこしいなこの粘着質!」
「そいつはとんだジャポニカ米。
 明日朝モリーが一枚足りなーい」
モリーはもう帰ったんだよ。一人分のプリンを作ってさ。
「オレ三枚割ったんだろ?」
「誤解だ」
「五枚か」
シリウスは言葉遊びに気をとられているスネイプの両手首を掴んだ。
「ここで油売ってないで学校帰れ」
「やかましい、離せ!」
スネイプが乱暴に振りほどこうとするほど、シリウスは握力を強めた。
「このヤロ!」
「っ、」
つるり、と白磁の器は指をすり抜け、床にぶつかって粉々になった。

「最低だな。この年になって、暴力に訴えることしかできんか」
仇敵をにらみ殺すようにスネイプは軽蔑の眼差しを向けた。(1年生のネビルなら死んでいたはずだ)
握り締められた手首を一度さすって、ポケットから杖を取り出す。
シリウスはその左手に触れ、袖を巻くろうとした。
スネイプの肩が条件反射のように、大きく跳ねた。
「いいかげんにしろ!」
鋭い高音が一瞬して、銀色の輝きが、シリウスの頬に一筋の傷を作った。
「オレは親切で皿洗ってやろうとしたんだろ!?
 手痛めてないか見てやろうとしてんだろ!? なんで攻撃されなきゃなんねーんだよ!」
物音に反応して、物置からクリーチャーの呻き声がした。
「必要ないと言った」
スネイプは、努めて静かな声を出した。
皿を魔法で元通りにしたところへ、シリウスが床にしゃがんで雑巾で泡を拭いた。
唇を噛みしめて、目を何度もしばたかせていた。

「学校、今オレついて行けないか」
小さな声が震えていた。
一転した振る舞いに、スネイプは眉間に皺をますます寄せた。
「なんで父親がわりのオレが見てやれないのに、お前が毎日勉強教えてるんだ」
「こちらとしては不本意なのだがな」
二枚の皿を流しに置いて、スネイプは長いため息をついた。
「なあ、ハグリッドのとこでファングといっしょに住むからさ、」
「よした方がいいぞ、誰にも区別できなくなる」
「面白くない冗談だな」
「校長もそうおっしゃるだろう」
と、歩いて行って椅子にかけていたマントから、薬瓶を放った。
シリウスの手のひらの中に収まっている細いガラス瓶は、繊細な切り子の柄の溝に、血が入り込んでこびりついていた。
「洗ってから一滴塗れ」
シリウスが水色の薬液を瓶の中で転がすと、模様と反射して光がきらきら揺れた。

薬の用法の補足のようにスネイプは言った。
「葬式は遺されたもののためにある」
シリウスは霧の向こうをいぶかる子供のように目を細めた。
「義子のことであせるより、実弟の面倒をできる限り見切ればいい。
 物事は認識されて初めて存在するのだから。覚えて認識していれば、命は終わっても存在は続く」
「なるほどわからん」
「気になるなら、お前の中でそれは終わっていないのだから、気がすむまで考えろ。
 不幸中の幸いで、お前には考える時間がたっぷりとある」
シリウスは、屁理屈で誤魔化されている気がして顔をしかめた。
「言わんとすることは分かるが、もうどうしても意味がないじゃないか」
それに、スネイプは講義を演じるように片手を翻しながら答えた。
「つまりただの暇潰しだ。成すことを失っては、寿命は長すぎる」
「センコーみたいなこと言いやがって」
スネイプは初めて愉快そうに口角を上げた。
「つまらんレポートの採点に行く」
外には出るなよ、と言い残し、マントを片腕に抱えて、暖炉を潜って行った。

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