ぞりんばれんと 時にはシリスネの話を[2/4] 忍者ブログ

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時にはシリスネの話を[2/4]

死喰い人を抜けて追ってに殺されたというあの子を、臆病者と切り捨てたのは正しかったのだろうか。
少なくとも、あいつは悪の手から逃れようとしたのではないのか。
なぜ『臆病』になった?
ヴォルデモートの方針に恐れをなしたのではないのか。
だから、さ。
レギュラスはやっぱりあの頃から変わらない、ただの──。

ただの、臆病者。
そうだろ。
シリウスは焦るように、スネイプの頭をローブに通した。

ごめんな、レギュラス。
兄さんなのに、守ろうとも、思いつかなかった。
たぶんこれは何度も繰り返す後悔のひとつで。
ブラック家との繋がりを保つための唯一の感情だった。
『家族』であるための。

レギュラスは、結局何を望んでた。

スネイプの髪を乾かしてやり、客間のひとつに、ロコモーターとアパレイトで運んでやった。
階段を降りて、モリーに伝える。
まず驚いた顔をして、シリウスが介抱してやったことを聞くと、ことさら目から水晶玉でも落ちたような顔をした。
失敬な。
シリウスはそのままとろとろプリンにお預けをくらって、スネイプの元に運ぶハメになった。
敵に塩プリンを送るような気分だ。


スネイプは浅い呼吸を繰り返し、泥のように眠っている。
「おい、起きて食えや」
聞く耳を持たない語りかけは空しい独り言となった。
何もできないくせに、とシリウスをいつも罵るスネイプは、そうしたくなるほど身をこなごなにするように働いている。
知ってたよ。

自分の家の中のくせに、薄青い闇では、たどたどしくしか、椅子やビューローを探し当てられなかった。
ベッド脇に腰かけて闇のヴェールのようなスネイプの髪を睨む。
なぜここまで不安なんだ?
ずっと捩じ伏せてきたはずの恐怖が、今ごろ追いかけてくるのは。
自室に溢れる過去の遺物たちが脳に侵入する。
見られたくない、ハリーには。
蓋をしていた矛盾に満ちた思考に、向き合わなければ大人になれない?
パンドラの箱と知って誰が封を解くものか。
最上階の、二部屋。

椅子から少し腰を浮かせて、スネイプの額に触れる。
冷たい。
死ぬんじゃなかろうな。
ヴォルデモートが(シリウスの)正義にとって致命的に危険だとは、認めざるを得なかった。つまり、ジェームズ。
欺瞞だとシリウスはいつも疑っているが、オーダーに情報を流すスネイプの身の安全など、誰も保証できない。
性質の悪い呪い?
それともただ栄養が足らなさすぎて、目覚めることもできないのか。

プリンを口に含む。
お気楽な卵の甘さが舌に滲む。
白雪姫。
馬鹿げた縁語が浮かぶ。

次の瞬間。
この世のものに遭遇したとは思えない、切裂な悲鳴がこだました。
「リディキュラス! リディキュラス!」
スネイプは杖なしに、渾身の呪文を放った。
「あーぎゃああー」
と、目の前に顔を付き合わせたまま犬の姿に変身し、シリウスは口で扉を開けて部屋を出た。

姿を戻し、手の甲で額の汗を拭いながら扉に背をついた。
とっさの判断、ベリーナイス。

10数えて扉をノックする。
「おいスネイプ、起きてるなら、モリーが置いてあるプリンか、降りてなんか食えって言ってたぞ」
また返事がない。
扉を開けようとすると遅い返事があった。
「ブラックだな?」
「ここはオレんちだからな」
「暇ならボガート退治はしっかりした方が、身のためだぞ。
 自宅ボガート退治屋になれ、貴様にとっては立派な仕事だろう」
「うっせー」
普段なら逆上するところだが、シリウスは胸を撫で下ろした。
つか、アレやるオレもオレだが、信じるアイツもアイツだよな。

「……このプリン食べかけのようだが」
シリウスの額に、拭った先から冷や汗が吹き出した。
そういやさっきのプリンはまだ微妙に口の中に残っていた。
「デザインか幻覚だろ」
「ちょっと来い」
張りのよい頬に、叱咤される3秒前の詐欺師のようなひきつった笑みをたたえてシリウスは部屋に入り、スネイプに侍するように立った。
人間、混乱していると、うっかり従ってしまうらしい、後々シリウスは後悔混じりに回想する。

「屈め」
「なんで」
と、言いつつ、シリウスは、ベッドで半身を起こしているスネイプの顔を覗き込むような姿勢になった。
「ムグェッ!」
そして、頭の中がまっさらにクリアされた。
スネイプの細腕が後頭部を掴んでいる? ことだけは理解できた。
「甘いな。犯人は貴様か」
その声にシリウスが我に帰ると、スネイプはこともなげに唇を拭っている。
言葉にならない悲鳴を挙げながら、シリウスはスネイプに人差し指を向けてぶんぶん振った。
「どういうことだってばよ!」
「恐怖はことごとく捩じ伏せねばならぬからな」
これ見よがしにいやみったらしく笑う。
「意味わかんねーよ!」
「犬にはわからんこちらの話だ」
いや、わかる。
さっきの、血迷ったオレをボガートだと思ってるからみたいだが。
あのなそこまでするかフツー!
シリウスの急性頭痛など素知らぬスネイプは、プリンをつるつる食べ始めた。
ボーっとしばらく眺めていたシリウスだが、突然背筋をシュキッと伸ばした。
「オレお前なんぞに構ってる暇ないから下行くから!」
送り出す言葉などかからなかったのが救いだった。

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