ぞりんばれんと 時にはシリスネの話を[1/4] 忍者ブログ

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時にはシリスネの話を[1/4]

暖炉が緑の炎に包まれ、いかにもぐったりとしたスネイプが石枠を潜って出てきた。
「あら、セブルスね」
長机を拭きながら、モリーが振り返った。
「お疲れさま、夜食はいる?」
「いや、ミセス・ウィーズリー、報告を終えたらこのあとすぐ学校へ戻らねばならぬ」
モリーは台拭きを折り返しながら言った。
「顔色が真っ青よ、ダンブルドアの頼みなの?」
「そうとも言える。課題レポートの採点だ」
机に向いているモリーの背中からため息が聞こえ、スネイプは眉尻を下げた。
「切羽詰まっているのでなければ、食べてお行きなさい。シャワーを浴びたら出来ているくらいよ。プリン好きでしょ」
口の中でモゴモゴと言いかけたスネイプをピッピッと追いたてて、モリーは鼻唄の続きを歌い始めた。
これだから、赤毛で世話焼きの女性は苦手だ。
スネイプはキッチンの戸を閉めながら、けれど、どうしても口許が綻んでしまった。
プリン。

モリーが卵をかき混ぜていると、キッチンの戸からまた別の黒い頭がひょっこり顔を出した。
「どうしたの?」
「食事じゃないのか?」
モリーは首をかしげた。
「においがしたから」
「まったく、犬の嗅覚ね」
シリウスはふふんと鼻にかけて笑った。
「ほめてないわよ」
ぴしゃりと言われ、シリウスの美しいうなじがくたりとうなだれた。
「夜食が必要な人がいるの」
「ああ、誰か来たようだな、暖炉が熱をもってる」
「今シャワーなんだけど、タオルや服を持っていってあげてくれない?」
「あー」
シリウスはモリーの手元にチラリと目をやった。
「中年なんだからいい加減太るわよ」
「やかましわ!」
モリーは笑いながら肩をすくめた。
「なにかつくってあげるから、頼まれてちょうだい」
「オーケー」
シリウスは腰に片手をあてた。
「で、そいつはだれだ?」
「セブルスよ」


シリウスは背中を丸めながら、長い足で自分の屋敷の廊下を闊歩していた。
アーサーに挨拶して、予備のローブをもらって、置いてくるだけの簡単な仕事だ。
業務外でクリーチャーのゲロをトッピングしてもいいが、モリーが怖いからやめておこう。

「おいっ、タオル類置いたからな!」
と、犬の脚力で即引き返そうとしたシリウスの背に、ガターンと派手な音が追いかかった。

今の音、風呂からしたよな。
トンズラこくか否か、シリウスは躊躇した。
風呂からは、もうシャワーの水音以外、何も聞こえない。
「おい」
基本的な正義漢体質、あるいは好奇心が、シリウスを振り返らせた。
脱衣場から、風呂の扉を叩く。
「おい!」
返事はない。
磨りガラスから、ぼんやりと、低い位置に肌色が見える。
「入るぞ!」
内側から鍵がかかっていた。が、子供時代の経験で、外側から鍵をひねることが、シリウスには出来た。
もどかしい手つきで解錠すると、やはり、床に横たわるスネイプの姿があった。
「人んちの水道無駄に使うなっつの!」
霧雨のような水勢に打たれながら、血色の悪い肢体が投げ出されている。
うつ伏せの顔を、なんとか腕が庇っていた。

シャワーを止め、床に膝をついた。
暖かい湯がズボンに伝わってくるが、気にもできずシリウスはスネイプの頬を軽く張った。
「も、もーしもーし!」
肩を揺する。シリウスの頭の中は真っ青になっていた。
「す、スニベリーちゃんはお返事もできまちぇんかー?」
返事がない。
「屍のようだ……」
たまらずシリウスはスネイプの上体を引っ張り起こした。
浮いた肩胛骨が指に固く当たり、眉がきゅっとひそめられて苦しげだ。
筋ばった手首を掴んでみると、ぴこぴこと動くものがある。
ひとまず、シリウスは息をついた。

だが、スネイプが目を覚ます気配はない。
太古、マグル学で習った知識がシリウスの胸に去来した。
「……人工呼吸?」
いやいやいや、目を覚ますのは自分の方だ!
持ってきたタオルを棚から取って、スネイプの身体を包む。
重い、が、元来(犬並みの)筋力のあるシリウスには、魔法を使うか、微妙なところだった。
まあいいか、と骨っぽいスネイプを横向きに抱え上げる。
「やっぱ重いわ……」
脱衣場まで運んで、シリウスは諦めた。
一応、ゆっくりと低姿勢に……。
「あ、ごめん」
手が滑って、やっぱり落としてしまった。
壁や棚にあちこちぶつかった音がする。
なんとなく、ルーピン教授狼化事件で、縛り上げて適当に頭ゴンゴン運搬していたことを思い出す。
「うぐ……」
スネイプがうめいた。
怪我の巧妙だな。いやあ、さすが天才歴35年、オレ。
濡れた目蓋を開こうとする。夢うつつ、といった感じで、言葉をつむぐ。
「君の……息子は立派に……」
「あがっ!?」
な、なんでオレのムスコの話が出てくるんだろう。
ご立派? あ どーも。
青春歴も35年なので、シリウスは完全にドギマギしていた。
スネイプはもう一度意識を手放した。
気休めまでに触れたままだったシリウスの手に、身を預けるように……。
(少なくともシリウスにはそう感じられた)
な、なんだ、オレがたびたび頭を打ったせいで、こいつさらにおかしくなったのか!?

ところで、万年肉不足のスネイプの身体が、急速に湯冷めして行きつつあることに、シリウスは気づいた。
ごくり、となぜか生唾を飲む。
コレ丸投げして頼める人、いねえ。
テキトーに扱ってこれ以上頭を打たせるとまずい気がした。ダンブルドアに大目玉食らう。
OWLやNEWTの試験前よりは少なくとも嫌な気分だ。

しかし、完璧超人オトナなオレ、ここで挫けりゃ男が廃る。
いいか、女の子だと思え。

白い(血色不良の)肌。
細い(栄養失調の)体。
長い(延び放題の)髪。

シチュエーションとしては、虚弱体質の白雪姫ちゃんが、シリウスの体力についてこられず、意識を手放してしまったわけだ。
オレの美しく長い指が彼女の……オエー。無理だった。
万年青春(思春期)野郎のシリウスの妄想力を持ってしても、スネイプの体に萌えることは不可能だった。
この方向性は駄目だ。
介護? 親に親切してやる義理もなし。(こいつにもないが)
こんなこと、面倒見たりなんか、
レギュラスにしか。
したこともないし、今後誰かの世話なんて、結婚もしそうにないし、なら、ハリーあたりの子供か?
つーか誰との子?
想像もつかなかった。

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