ぞりんばれんと ママとお父さんとセブルス[2/4] 忍者ブログ

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ママとお父さんとセブルス[2/4]

幼年期 ママとセブルス

ママはきっと気づかないだろう。
この時間なら、お父さんは出かけていて、ママだけが家に帰ってきている。
台所の窓から中をのぞいて、目があったらほほええもう。
ぜったい僕だってわかりやしない。
だって、スカートの下がすーすーするから。
いま僕は性別さえちがう格好をしているんだもの。

セブルスは背筋をしゃんとして、手はかるくにぎって、いいお家のねこのように優雅なつもりで歩いた。
家のそばのながい煙突が、灰色いけむりをもうもうとはきだしている。

もし。
もしほんとうに気づかれなかったら?
家の中の蜘蛛のすや、蠅を見るような無関心な目をされたら?

セブルスは伸ばした背すじがぞっと冷えるのを感じた。
肩をちぢこまらせて、唇をかんで、それでもセブルスは歩くのを止められなかった。
住みなれた家がちかづくにしたがって、胸の中で不安がどんどん大きくなっていく。

ママが、表情もくっきりわかるほどの距離になったとき、手におけをもって家から出てきた。
思わずセブルスは体をすくめた。
すぐにママは近所共同の外じゃぐちではなく、セブルスのほうをくるっと向いて、ギョロっとした目を大きく開いた。
「セブルス!」
ママはおけを放り出して、ずかずかとセブルスのところまで歩いてきた。
「ぬすみを! 悪党をやっちゃいけないと、さんざん言ったでしょう!」
ママは恐ろしい声でさけんだ。
ぎしぎしの黒髪をふりみだして、セブルスの頬をはった。
セブルスの手首をつかんで、リリーのきれいなワンピースをひっぱって脱がせはじめた。

「やめて、ぬすんでない! ともだちに借りたんだ!」
「ちがう! おまえにともだちなんているはずがない!」
「脱がなきゃいけないなら自分で脱ぐから! リリーの服が破れちゃう!」
セブルスは金切り声をあげた。
ママはえいようしっちょうの細い腕でセブルスの胸ぐらをつかんでひっぱってから、セブルスをつきとばした。
セブルスはうしろにふっとんで尻もちをついた。
リリーの服が土ぼこりにまみれる。

「それに女の子の服なんて! 汚らわしい商売をして、かけいを助けてくれるつもりかい!」
ママは今度はセブルスの髪をわしづかみにして、家まで歩いていこうとした。
リリーにくくってもらったふたつ結びがぐしゃぐしゃになる。
髪どめはうばわれてママのポケットに入れられた。
セブルスはリリーの服が地面にひきずられないように、ひっしに立ち上がって、足をぐちゃぐちゃにもつれさせながら、ママに引っぱられていった。

家に入るとセブルスはすぐにワンピースを脱いだ。
ママはいらいらと首をふりつづけている。
セブルスができるかぎりじょうずにたたんだワンピースを、ママはひったくって、台所へ行ってしまった。

セブルスが下着だけのまま玄関にうなだれて立っていると、ママがスープをはこんできた。
ママが工場をぬけだして、わざわざ毎日おひるにいちど帰ってくるのは、そのためだ。
「いつものおけを外に放り出してしまったままだから、今日はうちの水道をつかっちゃったわ。まだとまってないの」
ママはリリーのワンピースを持っていなかった。

「セブルス、自分の服はどうしたの」
「公園の木の下においてきた」
ママはセブルスの向かいがわに座っていたが、頬づえをついて見ているだけだ。
いつもそうなのだ。
ママはぱっと立ち上がって、台所まで行ってまた玄関を出て行ってしまった。
セブルスはママのほうを見ることができなかった。

次の朝、セブルスのきらいないつもの服は、ちゃんとセブルスのかたいベッドの足がわにおかれていた。
そして、公園に行ってみると、リリーの服と装飾品は、いつもの木の太い根の上に、きれいにそろえてたたんであった。

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