ぞりんばれんと ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[2/17] 忍者ブログ

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ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[2/17]

もしあの時治療できたら

あの時。
決戦の日。


己の感情すらわからぬままハリーは、首から血を流し倒れている男に向かって歩み寄った。
床に広がる血に濡れるのに構わず膝を折ると、叫びの館の、裂けかけた床が軋んでギイと鳴った。

分霊箱を求めてさまよった日々の中、兼ねてから考えていたとおり、ハーマイオニーから治癒の魔法を教わっていた。
それを、ハリーはスネイプに施した。
杖を手にしたハリーを、スネイプはローブの胸元を掴んで引き寄せた。
大理石のように青白い顔が、目の前にあった。
緑の目が黒い目を捉える。

幼馴染みのリリー・エバンズとセブルス・スネイプ。
スネイプの思い。二人の決裂。
リリー・ポッターの死。
牝鹿。ダンブルドア。
そして。

ハリーの目に注ぎ込まれたのはスネイプの記憶だった。
閉心術の個人授業で、事故的に心を覗いたときのような、走馬灯を受け渡すような記憶の群れが、ハリーの脳を突き抜けた。
スネイプは疲れはて、ハリーを掴んでいた腕はぱたりと落ちた。目蓋は震えながら少しずつ閉じた。
それが、ハリーには一瞬微笑みかのように見えた。
僕がこれから果たすべき義務を伝えるため、最後の力を振り絞ったんだ。ようやくハリーは理解した。

「ハーマイオニー手伝って! この人を死なせちゃいけない」
余りの光景に息を飲んでいたロンとハーマイオニーがその声で我に帰った。
「ハリー、きみ何考えてるんだ!?」
「いいから!」
ハーマイオニーは戸惑いながらも「理由はあとでいいわ」、とスネイプを挟んでハリーの反対側に膝をついた。

そのとき、突然高く冷たい声が轟いた。
ヴォルデモートがこの部屋に戻ってきたのかと三人は身構えたがそうではなかった。
その声は魔法によって拡張されたもので、校内と、近辺すべてに向けられていた。
一時間の休戦、ハリーを禁じられた森で待つ。一時間だ。
そうヴォルデモートの高く冷たい声が伝え終わると、あたりはまた静かになった。

ハリーは何も言わず、治癒魔法を続けた。
「ハリー!」
ロンが、スネイプを手当てすることへの懐疑を含めて叫んだ。
「あなたはハリーに、ヴォルデモートの元へ行かないのかって問い詰めたいの?」
ハーマイオニーはぴしりとスカートを正してしゃがみ、ハリーの行動に従った。
ロンはまだ何か言おうとしたが、破裂のようなため息をついただけだった。
やがて血の流れ出す勢いが収まってきた。
二人の治癒のおかげか、スネイプの体に残された血液が底をついてきたのかはわからない。
スネイプの皮膚はまだ嘘のように白かった。

「ハーマイオニーと僕は引き続き治癒魔法をかける。ロン、魔法で浮かべて運んでくれ」
「どこへ!」
「医務室に決まってるだろ。一時間の猶予があるから治療できる」
「でも、易々と請け負ってくれるようには思えないわ」
ハーマイオニーはスネイプに目を落としたまま言った。
ハリーは肺の中の空気をすべて吐き出し、もういちど満たした。
「ダンブルドアの肖像に説明してもらえば、すべてわかる」
ロンは、ため息をついて一度杖を振り上げたが、やはり途中で止まった。

「ちょっと待てよ! なんでいきなりスネイプなんかを助けなくちゃならないんだ?」
「頼むよ、ロン」
ハリーの声は焦りと苛立ちで震えていた。
「どうせ、命をとりとめたとしても、とても逃げられる状態じゃないわ」
ハーマイオニーの冷静な声に、ロンはハッとして、皺寄せた眉をハリーに向けた。
「ロコモーター」
口を尖らせたまま、ロンが出口に向かって歩き出した。
さっきのハーマイオニーの言葉に心臓を打たれたのは、ハリーも同じだった。
スネイプは横たわった姿そのままで、浮かんで宙を滑っている。
まるで目に見えない透明な棺が、スネイプを納めて進んでいくみたいだ。
ハリーは今浮かんだ想像を打ち消して、呪文を繰り返した。
棺なんかない、魔法が届くんだから。

校庭のあちこちに人が倒れていた。
敵も味方も関係ない、みんな死んでいる。
オリバー・ウッドに運ばれていく、コリン・クリービーを遠くに見た。
「ハリー!」
駆け寄りながらそう叫んだのはネビルだった。
ネビルは、ハリーたちに伴われて浮かんでいる姿を見ると、泥塗れの顔色を変えた。
「それ……死んでるの?」
「いや」
ハリーは呪文の合間を縫って言った。
「死なせない」
ネビルは一瞬、1年生の頃スネイプに叱られて魔法薬の調合を前にしたときのような、くしゃくしゃな表情をした。
こちらに気づいたオリバーが近寄ってくる。
「どうした」
「大丈夫! 三人には、怪我はないって。さあ働かなくちゃ」
ネビルはぴらぴらと片手を振った。
感謝を込めて頷いて、ハリーたちはまた歩き出した。
「全員は、さすがに透明マントじゃ覆いきれないだろうな」
ロンが言った。
そうだ、透明マントはここでは使えない。
ハリーは心の中で呟いた。
透明マントは、まだ使う用事がある。

城につくとまず、武器だか治療道具だかを手に、せわしく走り回る人々が目についた。
マダム・ポンフリーなら、わかってくれるだろうか。
ダンブルドアの肖像は、スネイプの記憶によると校長室に飾られている。
絵画の中を移動して来て説明してもらうことができれば。
ダンブルドア。あの人ともう一度話せるなら、訊きたいというより、問い詰めたい。

行き交うごとに人々は、ハリーに声をかけてくれたけれど、禁じられた森へ行けとは誰も言わなかった。
それ以上に、空中に横たわるセブルス・スネイプの姿に、皆仰天した。
「詳しいことは、歴対校長の肖像にでも訊いてください」
ハリーの返答はだんだん投げやりになった。
泥や血で至るところ汚れまみれなのに、とび跳ね出しそうに喋る人々を見ていたら、張りつめていた緊張の糸が弛んだようだった。

医務室は看護するものされるもの入り乱れて、人と座敷童子妖精とでいっぱいだった。
意識のある者は、ハリーとスネイプを交互に見比べた。
ポンフリーは目の前の患者の脚に包帯を巻きながら、首だけこちらに向けて目を見開いた。
「この人を助けてください」
ポンフリーは手を止めない。
「ただ、この場にいる人みんなと同じで、このまま死んじゃいけないんです」
ハリーはなぜか、2年生の頃ポリジュース薬で半分猫に変身してしまったハーマイオニーに付き添ってここに来た時のことを思い出した。
マダムは目の前の患者の脚に包帯を巻きながらそれを聞いていた。
何も言わなかった。
「どうか僕の言葉じゃなくて。この人を、信じてください」
マダムが包帯を結んだ。
そしてただ静かに、意識のないスネイプの傷跡を見た。

ハーマイオニーが言葉をついだ。
「ヴォルデモートの大蛇に噛まれました。私とハリーが止血くらいはできたけれど、」
「毒は?」
マダムは眉ひとつ動かさない。
「わかりません」
マダムはスネイプのマントを丁寧に脱がせた。それを魔法で鮮やかにはためかせ、床に広げて敷いた。
「ベッドが足りませんから、固いけれど」
ロンは丁寧に杖を下げ、丁寧に、スネイプの身体をマントの上に横たえた。
「ありがとう、ございます」
「助かってから言ってちょうだい」
マダムは、スネイプの首を覆う黒い襟を開いた。


マダムに頭を下げて、一行が大広間にはいると、自分で自分に応急処置を施している人や、他人に世話を焼いている人やらが大勢いた。
本来なら大家族の家事をこなすノウハウでその筆頭になっているはずのウィーズリーおばさんの姿が、そこに無い。
ロンが真っ先に、夢遊病のような足取りで歩み出た。
大勢のウィーズリー家の人たちが、膝まづいて、何かにすがっていた。
その集合は、ロンが加わっても、一人足りない。
その中心にある姿は、隠れて見えない。
「ロン!」
ハーマイオニーが駆け寄った。
ハリーはふらふらとその場を離れた。
大広間の中央に、たくさんの人々が横たわっていた。
見たくない顔が、床に並んでいた。本当はずっと、恋しくてしかたのない顔だったのに。
リーマス。トンクス。
眠っているかのようだ。
ハリーは透明マントを羽織って、大股で広間を飛び出した。

校庭を進むと、城が遠ざかっていった。
ハリー・ポッター。セブルス・スネイプ。トム・リドル。
見捨てられた子供たちにとって、ここは家なのだ。
この、大きな城が、うつくしい湖が、豊かな森が。
立派で、誰にだって誇れるこの場所が。人々が。
僕の家だから。

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