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魔法薬学教室
染みのついた実験台、煤っぽい戸棚、がたつく木の丸椅子。
正直、嫌な思い出ばかりの場所だ。
叱られなかったことのない授業、罰則。
そんな記憶にばかり結びつく。
この教室はこんなに小さかったっけ、ハリーはもう一度地下室を見回した。
ゆっくりと教室を進んでいく。
その奥には、教師個人のストック庫。
ホグワーツを遊園地のように探索した自分が、知っていたけど立ち入らなかった場所なんて、ここくらいじゃないだろうか。
小さすぎる入口を抜けると、もとより猫の額のような狭い部屋を、古い木棚が天井まで覆っている。
高い壁のように閉塞的な棚々は、トライウィザードトーナメント三回戦での迷路を思い起こさせる。
その室内いっぱいギュウギュウの棚にはさらに、薬瓶が整然所狭しく並んでいる。
どれひとつにもラベルはない。
彼にはそんなものが必要なかったのだろう。
ひとつひとつ、それを収集し分類して、ここに並べた指先に思いをはせ、撫でていく。
ハリーの手に埃をなすりつけると、小さな瓶たちは得意気に輝きを取り戻した。
それにしても、部屋の主に頼まれた品はどれだ?
あの人、自分に必要なくても、学校は共用の場所なんだからラベルくらいつけてくれ。
一般人が探すのにとっては、意味不明なちっさい瓶が多すぎる。
そして思い出す。
かつてこの部屋の主が、とにかく嫌いだったんだ。
胸の中がこそばゆく、ハリーは唇を甘噛みした。
その細く小さな瓶ばかりひしめく内にひとつだけ、コップくらいに広い、透明な素っ気無いガラス瓶があった。
中のうすい桃色の透明な薬液のさらに中を、白い煙が渦巻いている。
いや、うっすらと青い銀色の、気体とも液体ともつかない物質。
ハリーはこれを、ダンブルドアのペンシーブとセットで、よく見知っていた。
これは『記憶』だ。
シャボン玉液ではないだろう。
スネイプの?
ハリーは恐る恐るガラスの栓を開けた。
甘い匂いがした。
『記憶』は無臭のはずだ。
ではこれはこの液体の匂いだろうか。
甘いような、切ないような。
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