ぞりんばれんと ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[16/17] 忍者ブログ

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ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[16/17]

もし家族になれたら

衣服の下には皮膚があって、皮膚の中には、血肉があって、骨があって、内臓があって、心がある。
匂い。
甘いような、切ないような、匂いがする。


「のんびりしているが、今日は魔法省は」
スネイプは食べるのが遅い。
ほぼ咀嚼せず、丸飲み干すような食べ方もできないではないが、この夏休みは、特に遅い。
まったりどうぞ、とハリーが言って以来、急ぐことをやめた。
食べながら牛になりそうな速度でもくもくと食べている。
別に喋りまくっているとか、ながら食べをしているとか(以前本を読んでいたらクリーチャーにソースパンをお見舞いされた)、そういうことはない。
常に、手も口も動いているはずなのに、遅い。
それは、一口ずつが極小で、それを力一杯味わっているせいらしいので、別に苦慮することはない。
でも新学期にその癖が残っていたらすごく愉快だとかハリーは思う。
それで、いつものろすぎるスネイプの食事の半ばで出省時間が来て、「いってきます」と暖炉に飛び込まざるを得ない。
(スネイプの返事はくぐもった「ふむ」)

しかし、休日はちがう。
ハリーもたっぷりと時間をとって、スネイプの朝食に付き合っていた。
それを、スネイプも察知できたらしい。

「たまの休みだから、片づけでも。クリーチャーにばかりさせるわけにはいかないし」
「そのための座敷童妖精だが……」
スネイプは口元の、ベーコンエッグの黄身を拭いながら呟いた。

ハリーは最上階の、シリウスの部屋の戸を叩いた。
返事がないのはわかっているけど。
ドアノブをひねり、音をたてないように足を踏み入れる。誰かがまだそこのふかふかベッドで眠っているみたいに。
去年スネイプに家捜しされて以来、手つかずだったこの部屋の、床に散乱した紙類を、ハリーは拾い集め始めた。
クリーチャーにさせるわけには、本当に酷だから。

古い教科書になされた落書きは、正直知的レベルの底を遥かにぶち抜いていた。
なんていうかネタの方向性が、茶色かった。
ちょいちょい、プロングズなる人物も参加しているし。(どうでもいいが、他人の教科書本文を●で伏せ字はどうかと)
そりゃスネイプも引き裂いて床に叩きつけるわ。
ハリーは生暖かい無表情でそれらを本棚に戻し、ひっくり返した黒インクが染み込んで乾いた引出しにスコージファイをかけた。
(去年発見した時にきれいにしておけばよかったと後悔した)

一段落してから、壁の、マグル式写真に目を落とす。
水着グラビアではなくて。『悪戯仕掛人』の、笑顔に。
鼻からすんと息を吸い込んだ時、ドアが勝手に開いた。
ひとりでに、ではなくて、ノックもなしに、だ。
スネイプが言葉なく立っていた。
「片づけとは……」
言いかけて、立つ瀬なく壁の後ろに寄った。

「先生、手伝ってくれるんですか?」
嫌み半分ハリーが言うと、スネイプは大人しく部屋に入ってきた。
「まさか手作業か」
片づけあぐねて積み上げられた、グラビア写真の切り貼り作品に、スネイプは眉をひそめた。
「まあ、だいたいは」
ダンブルドアあたりは、すいすいと破壊しつくされた部屋を直したものだが、ハリーではそうはいかない。
「たまには、いいですよ、手作業」
と言っても、この人が学者である以上、思い切り地道な情報処理の手作業をイヤっていうほどしているのだろうが。

「先生、あの、母さんの写真持ってます?」
ハリーが尋ね終わらないうちに、スネイプはさっと額にいれた写真の欠片を懐から取り出した。
この速度と場所はちょっと引くわー。ちくわー。

とりあえずうなずいて、ハリーは棚からその片割れを取り出した。
スネイプが泣きながら引き裂いた、あの写真を。
「額から出しても構いませんか?」
二切れの写真の中では、三人の人物がせわしなく動き回っていた。
スネイプはやはり黙ったまま、言われた通り額を開いた。
それぞれの手のひらを並べる。
そして、スネイプは二人の手の上の写真に向けて、杖を揺らした。低い声で言った。
「レパロ」
笑っている一つの家族の写真は、もう一度、一葉に戻った。
額にまだ傷のない小さなハリーを、若いジェームズとリリーが、大切に、大切に慈しんでいる。
世界でいちばん幸福に。

「先生」
ハリーは向き合ったスネイプの肩を掴んだ。
「ありがとう、ありがとうございます」
声が揺れて、崩れていくのが自分でも分かった。
「たくさんたくさん。ありがとうございます。スネイプ先生」
写真ははらりと床に落ちて、それでも変わらずはしゃぎ声が聞こえてきそうに動き続けていた。
ハリーはスネイプを抱きすくめていた。
黒いローブに涙をすりこむように。声をたてて泣いた。
背丈は、たぶん、今はハリーの方が少し高い。
嗚咽に飲まれて意味をなさなくなっても、ハリーは感謝の言葉を繰り返していた。
その時スネイプも、確かにハリーの背中に手をまわしてくれていた。

「ポッター」
先生、泣いてるときはそんな声、出すんだ。
互いの体を互い違いに埋め込み合うように。
骨ばった身を寄せあいながら、思いの外痩せこけた肩の、思いの外強い力を感じながら。
生きてると思った。生きていけると思った。
「ハリー・ポッター。ありがとう」
自分とリリーの間を引き裂いてでも。生まれてきてくれて。ありがとう。

そう、言われたような気が、ハリーには、した。

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