ぞりんばれんと ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[17/17] 忍者ブログ

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ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[17/17]

魔法薬学教室

ハリーは自分が小瓶を持ったまま、たった一人で立ち尽くしていたことに気づいた。
長時間嗅ぎ続けてもう慣れた甘いにおいがする。
頬がぐしゃぐしゃに濡れている。
薬棚は整然と並んでいる。
そうか。
右から。二番目の。小さな。瓶。

あった。

ふわふわとした問題のためのチョコレート

そう、一つだけラベルの華奢な字で貼られた細い瓶の中で、薄黄色の液体がたゆたう。
なんて。ひねくれもの。いやなセンス。
面白いとでも、思ったんですか。笑えるとでも。
これを見て僕が、笑うとでも。

膝から崩れ落ちた。
瓶を握りしめて。
二つの瓶を抱き締めて。

涙と鼻水が一気に押し寄せて流れ出して顔を伝って行った。
小さな花火のように目鼻の奥で何かが弾けていた。

胸の底が凍えるような冗談に、ハリーはやっぱり笑った。
泣きながら笑うためのギャグだったのだろう。
スネイプを思って笑った。

茫然と、部屋の中を見ていた。
涙はもう乾いて、どれくらい時間が経過したかわからなかった。
薬棚が高く荘厳にそびえたって、とても、とても部屋が大きく見えた。
何かの薬品の作用で、自分が小人になったかと思うくらいだった。

「ハリー」
かけられた声に、ハリーは咄嗟に返答できなかった。
スラグホーン先生。
この部屋の、薬品倉庫の、現在の所有者だ。
「どうだい、もう遅いから見に来たんだが、見つかったかい」
「はい」
ハリーは立ち上がった。
足元がふらついたので、一度目を閉じて、前を見た。
「ありましたよ。解狼薬」
扉を抜け、スラグホーンに小瓶を手渡す。
「おお、おおこれが……。
 よかった。こういうものがあれば、人狼への扱いも良くなるだろう。
 毎月人狼化自体を抑えられるなら、普通の人間と全く違いない」
グレンジャー君も喜ぶな、とスラグホーンは大きくうなずいて、ラベルの文字を撫でた。
「ああ、あの子の字だ。変わらないな」
目を細めてから、ハリーの手の中のもう一本の薬瓶を指差した。

「それは」
「あ」
蓋が開いたまま、中の液体を失った小瓶。
その底には銀色の液体とも気体ともつかない物質が渦巻いていた。
「ちょっといいかね」
中身を溢さないように差し出すと、スラグホーンは瓶の口を手団扇で扇いで、においを確かめた。
目を見開いた。
「ハリー、何か、見えたのかい」
「はい」
ハリーは俯いた。

気づいたら中身の溶液がすっかり無くなってしまっているなんて。
大事な薬だったのだろうか。
「見た内容は、言いたくなければそれでいい」
スラグホーンはおほんと喉を鳴らした。
「貴重な材料から得られる、特別な薬品だ。調合も難しい」
ああ。やっちゃったな。
ハリーは下を向いた。
「すぐに揮発してしまう。毒性はないが、だからすごいところだが」
スラグホーンは大袈裟な声を出した。薬学の授業中みたいに。

「加えた記憶物質を元に、幻覚、のようなものを見せる。見るものが望む姿の仮想体験をさせる」
それが。
スネイプには、それが必要だったのだろう。
ハリーはまた胸の内が震えるのを感じた。
長い長い日々の、小さな慰めに。
「ああ、あった。所蔵リストの中に1瓶分だけだな。ほら、ここに書いてあるのが解狼薬だが。
 棚の場所も書いておいてくれると助かったのだがなあ」
「え……? じゃあ、この他に作られていたということは」
「無いだろうな」
見なかったんだ。スネイプは。
ねじ曲げた過去を。慰めのために。
自分の記憶を入れるところまでは行って、でも、蓋をした。
思いのように蓋をしたまま。
それを僕が開けたから、スネイプとの交流を見たんだろう。

「作り方を教えようか?」
スラグホーンは意地悪っぽく笑った。
みぞの鏡。
ハリーは身をもって、そういう危険を理解していた。
今回も。
だからお返しに微笑んだ。
「知っても、使いません」
「やはり君は懸命だな。
 それにしても善いにおいがするだろう。私も一度だけ、この薬の世話になったことがあったが、またこのにおいを嗅ぐとはなあ」
ハリーは瓶に鼻先を近づけた。
もう、幻を見せてくれる程薬品は残っていなかった。
いくら嗅いでもただ、甘いような、切ないようなにおいがするだけだった。

「ハリー、あの子と……スネイプ先生と、もう一度話してみたくはないかね」
ハリーは、はっとして息を潜めた。
「こういうふうに、記憶物質が残っていれば、魔法省でね。校長室にあるような、動く肖像画が造れるんだよ」
なら。
校長室にもまだスネイプの記憶は残っている。
「君が掛け合えば、うまく行くだろう。彼は、それだけの人物だった。
 きっと今後も、ホグワーツと魔法界を助けてくれるだろう」

じゃあそこに。
今回の僕の幻想をこっそり混ぜ込んでしまおうか。
そうしたら、少しは性格が丸くなるかもしれない。
それこそナンセンスな冗談だけど。ハリーは密やかに微笑んだ。
いや。もちろん自分だけの空想として、心のうちにしまっておこう。
恥ずかしいったらないもの。

地下から校長室へと、階段を登る。

ダドリーに手紙を出そう。
ジニーにプロポーズをしよう。
クリーチャーにパソコンを買ってあげたら、本当はどうなるかな。
ダーズリーのおじさんおばさんにも、何かしたい。
だってまだ、出来ることだから。

たぶん僕のために遺された校長室の合言葉を口にする。
この合言葉もそろそろマクゴナガル先生が変えるだろう。

ハリーは、ペンシーブに広げられたままだった銀色の渦を、不死鳥の尾羽の杖で丁寧に掬いとって、透明なガラスのフラスコに入れた。
杖と瓶の口が小さく澄んだ音を立てた。
ハリーがフラスコを揺らすと、なかの記憶もきらきらと、ひんやりとした光を放って静かに揺れる。
かつてヘドウィグに触れたような指先で、ハリーはガラスの底をすっと撫でた。

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