ぞりんばれんと ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[14/17] 忍者ブログ

[PR]

×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

ハリーとスネイプはいっしょにくらそうよ[14/17]

もしいっしょに絵本を見たら

「ただいま帰りましたー」
ハリーがダイニングの暖炉から入ってくると、クリーチャーがぱたぱたと荷物を持っていってくれた。
スネイプは新聞から目を上げずに「おかえり」と呟いた。
「んーやっぱりなんか家って感じでいいですねこれ、帰ってきた感ていうか、帰る場所感というか」
「そうだな、しかもホグワーツではしないやりとりだ」
珍しくスネイプが素直に同意してくれて、ハリーは少し驚いた。

「ねえ、先生にとって家ってなんですか?」
「そうだな……」
スネイプは新聞をかさかさと畳んだ。
「臨終を迎えたい場所」
「なんつーネガチブ!」
夕飯の香りが運ばれてくる。
「まあ、でもそうかもしれない、ビードルでも、三番目の弟は穏やかに天寿を全うしたわけだし」
「ビードル? コクーン?」
「なんの話をしてるんですか」
「スピアー」

「じゃ先生どこで臨終を迎えたいんですか」
平和だからこそ言える冗談を、ハリーはこっそり噛み締めた。
「ホグワーツだ、と前は思っていた、だが今は」
スネイプは目を閉じて、ため息をついた。
「死にたくない」
ハリーは爆笑した。
「そっすね。僕もです」

「お食事の用意ができました」
クリーチャーが、談笑(たぶん)している二人に向けて首をかしげた。
「ありがとう、いただきます」
三人での食事はいつも物静かで、おいしかった。
「でも先生、吟遊詩人ビードルの本、ご存じありませんか?」
「……」
スネイプは沈黙したままだった。ハリーが知っている本について知らないと言うのが癪なのだろう。
「ハーマイオニーも僕も知らなかったんですけど、魔法界のお伽噺なのだそうです。雪白姫やシンデレラのような」
幼少期を魔法界で育たなかったものは、知らなくて当然だ。
「……」
「先生、シンデレラくらい」
「知らなくとも、いままで困らなかったぞ」
あ、リアルに灰被るような幼少期。

「だが幼い頃から数は20まで数えられた。したいの片付けもやっていたからな」
「嘘でしょう」
「嘘だ」
なんでそんな微妙なコードギ●スR2ネタは知ってて、アンパ●マンも知らんようなことを言うのか。
はっ、Pok●monは知ってるのか。

「ハーマイオニーが再訳すると意気込んでいたので、それが出来たら送ってもらいましょう」
「……あ!」
「ななな、なんですか?」
「ノーブリャーですかー」
「……」
「……いや。なるほど。やっと分かった、ダンブルドアの部屋で何か書き物が見つかって云々と言うのは、それだったか」
「なんですかその中途半端な認識」
「我輩が療養中に話がすんでしまったし、それからは忙しかったし」
スネイプはクリーチャーにチキンを取り分けてもらっている。

「ダンブルドアが残した下らな、いや、つまらな、いや、ゴミのような、いや。書き物はたくさんあったから、別に気にも留めなかった」
「エエエエエ!! どんなですか!」
「ラブロマンスだ」
「ウエエエエ!!」
「しかも男同士の」
「オエエエエ!!」
それ、早いとこ焼き払わないと大変なことになりますよ。

「ねえ、クリーチャーは知ってる? ビードル」
「もちのロンでございます」
クリーチャーが毒されている。
ロン、後で捻る。

夕飯の後、クリーチャーは自分の寝床から(例のばっちい毛布から)一冊の絵本を取り出してきた。
彼がごそごそ探している間に残りの二人できれいにしておいた食卓で、ハリーを真ん中に挟み、三人はそれを広げた。
表紙を捲った中表紙には、子供の字があった。
『シリウス(そして書き足しで)/レギュラス\・ブラック所蔵』

ぷしっ。

ハリーの涙腺がすごい音をたてた。
「マスター?」
「どぇっ、どぅわいじょっ、うぅえあ」
「どうしよう! ポッターの気がふれた!」
「うっ、うぐっ、へんへえ、ほげ、ふごく失礼」
「や、喋らんでいいから、怖いから」
絵本を汚さないように袖で目を覆わざるを得なかった。
ハリーは、本当に何かおかしくなりそうで、隣にいるクリーチャーを抱き寄せたが、レギュラスのことを思い出したらしく、貰い泣きさせてしまった。
「ま、ま、すた……首がじばっ……」
うん、見事な貰い号泣。
感極まって、さらに力を込めて抱き締めようとしたら、腕の中の温もりが消えた。
「わざとやっとるだろ!」
授業中を彷彿とさせるスネイプの怒声である。
「ええ、まあ」
お気に入りのぬいぐるみを奪い返した子供のような仁王立ちをしている。
「大丈夫ですか、クリーチャーどの。瞳孔を拝見」
「い、いだだだだ! ゆゆゆ指! 目が、目がああぁぁぁぁあ!」
「先生わざとやってるでしょ!」
「ああ、まあ」
これってある意味虐待なんじゃ。愛はあるけど。
「ある意味も何も虐待です! でもクリーチャー、ドSです!」
「そんなドエスどえーす、とか言われても」
「先生ボケが微妙すぎ」
たまにだから良いんですよ、ツンデレのデレといっしょで。

クリーチャーをキッチンの後片付けに解放してやって、残りは部屋に下がって寝る用意を始める。
絵本は借りてきていた。
ハリーはベッドに腰かけて子供の頃の、二人の兄弟の名前をなぞった。
二つの名前で、筆跡は違わない。
幼いけど、シリウスの、字だ。
何度も手紙で見た大人の字はそれから少し雑になったせいで、この二種類の筆到の共通点を、いくつも見い出すことができた。
子供なら抱えるほどの大きな絵本だ。
ハリーは上を向いてしばらく瞬きした。
「ポッター」
ノックの音がした。
「どーぞ」
声の主は当然スネイプで、あわてて脇のタンスを漁るふりをしたハリーの側に歩いてきた。

「そのお伽噺とやらは」
そういえば、話を知らないスネイプのために出してもらったんだった。
「そこにあるんで」
「ポッター」
「はい?」
「目が赤い」
スネイプは絵本ではなく、サイドボードを指差したハリーの横顔を覗き込んでいた。

「ずっと考えていた、もとよりここはブラックの家だ」
ハリーは振り向かなかった。
「どういう意味ですか」
「彼の望みに、反すると」
「あなたが? あなたがいることが?
 シリウスはあなたを嫌いだったから?
 僕とシリウスがずっと、家族として一緒に住みたいと願っていたから?」
ハリーはスネイプに向き直ってまくし立てた。
「シリウスがもうこの世に何もしないって知ってるくせに。
 死んだ人はもう何も出来ないってわかってるくせに。
 そうして、死者の影を恐れるのは、同時に母さんの不滅を信じたいからですか?」
ハリーは、自分の台詞が走馬灯みたいに目の前を駆け巡っていくかのように感じていた。

「許されないと思っておきながらどうして僕を守ったんですか。
 何をしても償えないなら、何をしても意味なんか無いのに。
 どうして尽くしたんですか」
ハリーの声はだんだん怒鳴るようになっていて、スネイプは肩をせばめてそれを聞いていた。
無私なんてやめてほしかった。
誰かのそばにいたかったって。学校という暖かい社会に身を置きたかったと、言ってくださいよ。
「君のそばにいたかったからだ。途中からは」
ハリーは呆然とした。
読心。
されたのだろうか。
でも、もうそんなことはどちらでも関係なかった。
「スネイプ先生の、ばか」

それからスネイプは黙ったまま、ハリーの部屋を出て行かず、椅子を陣取って絵本を読んでいた。
「『死』が歩いてきた?」
ハリーは聞き覚えのある質問に笑いながら答えた。そして、死者は無力だ。

拍手

PR

ぞりんばれんと(producted by ぞり)
TemplateDesign by KARMA7
忍者ブログ [PR]