ぞりんばれんと ママとお父さんとセブルス[4/4] 忍者ブログ

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ママとお父さんとセブルス[4/4]

青年期 セブルスとママとお父さん

セブルスは、ホグワーツ魔法魔術学校に進学し、休暇以外はスピナーズエンドに帰らなくなった。
5年生を過ぎてからは、地元でもリリーと顔を合わせることが出来なくなっていた。


大の男一人を埋めるには浅すぎる穴の中、父の亡骸の上に母は酒を振り撒いた。
思えば昔から夫婦喧嘩の争点は飲酒であることが多かった。
父はいつもわずかな給料を持って帰るとき、一緒に酒瓶を抱えていた。
「何もあまり好きじゃない男が、唯一自分のために買っていたものなのにね」
母は赤い鼻をしていた。


父の死因は過労だった。
仕事中に倒れて病床にあった父。
お金が無いから治療までは受けられなかったが、アル中だろうと吐き捨てた母に、医者は首を振った。

ついでに母もひどい栄養失調だそうだ。
セブルスはホグワーツで過ごしたおかげで危険なほどには痩せていなかったけれど、医者は家族の栄養状態の差から何か勘違いしたようで、「これからは君がお母さんをちゃんと支えてあげるんだよ」と悲しそうに諭した。
もちろん強ち完全に間違いだとは言えない。
こんな町の医者なので、やっぱり彼も継ぎ接ぎだらけの白衣を着ていた。
その言葉を横で聞いていたときの母の表情が忘れられない。


「葬式なんか出せないから、焼いてしまおうと思うけど、薪もないわ」
母はゆらゆらと家に入っていった。
彼女は今どうなってもおかしくないように見えたので、セブルスは静かに後についた。
ベッドの下に隠してあった古い古い木の本箱から、母はほこりと蜘蛛の巣にまみれた杖を取り出し、自慢するように掲げて振り返った。
セブルスは、自分が居るのに気づかれていたことに驚いた。
細くて綺麗な杖だった。母のガリガリの指や手足も、さすがにこの杖には負けている。

母に倣って、セブルスは穴の中の父の遺体に杖を向けた。
「インセンディオ」
二人の声が重なった。
死体は一瞬で燃え上がった。
アルコールを被っていたせいもあるだろう。
煙に噎せ返りながら、セブルスと母はじっと炎を眺めていた。
スピナーズエンドの煙突の煙と、空で絡み合って消えていくのだろう。

「煙が目にしみて」
火がはじける音にかき消されないように、何故か母は大きな声を出した。
実際のところ、彼女がどんな様子か、燃え盛る火炎と煙のせいでよく見えなかった。
セブルスは堪らなくなって、穴を掘るときによけておいた土の山をレダクトで吹っ飛ばした。
穴に土が被さると火は消えた。
埋まってしまった穴の前で、母はセブルスを見ずに呟いた。
「なぜこんなことをするの?」
自然に消火した後の穴の中を見たくなかった。母に見せたくなかった。
節っぽい母の折れそうな手を無理に引いて、セブルスは家に入った。

それから数日は、母はずっと憔悴しきりで、話しかけても返事が無かったし、食欲も消え失せているようだった。
それでもセブルスは医者から言われたことを思い出して、バリバリに固まった食事パンを、外の蛇口から汲んできた水に浸して、母の口にねじ込んだ。
せめて、少しでも家事が出来たら。
セブルスは家のために何もしてこなかった。

やがて、母はセブルスの方をしっかり見て話せる元気が出てきて、食卓の一番明るい席に座って、一日を過ごした。
かつての自分の勉強特等席に着かれていることが、セブルスの心を少し和ませた。
次の朝、母は、自分の部屋から出てきたセブルスに気づいて笑いかけた。
「出かけてくる」
「いってらっしゃい」
母の今の仕事場がどこにあるかすらセブルスは知らなかった。
延々と人に尋ねながら、父の死亡を届け出る方法はわかった。
しかし結局、忌引きの休職については、説明する相手を持たなかった。

リリーは結婚をするそうだ。
学生時代、散々セブルスを痛めつけぬいたジェームズ・ポッターと。
学校の廊下で婚約の噂話を沢山聞いた。うんざりだった。

どっと疲れて家に帰ると、玄関先のどぶのような土の辺りで、何かが激しく燃えていた。
セブルスは慌てて走り寄って、その火に飛び込みそうになった。
火炎の隣に、盛り上がった土山がある。
セブルスはその場に立ち尽くした。

辺りが暗くなってから気づいたときには、脚が地面にへたりこんでいて、いつの間にか劫火が消えたその穴の中には、二人分の人骨があった。
血と肉を減らしてしまうと、二人は元の体積を失って、浅い穴に収まっていた。

母は最初の穴を掘るのに、セブルスに手伝わせてくれず、手作業ですべてをこなした。
年老いていく自分が足手まといにならないように、燃え残った小さな小さな墓穴を埋めることしか遺してくれなかった。
母は死の呪文を使わなかったのだ。
炎の魔法よりも、一瞬で事が済んで、楽なのに。違法な事は。
父母は間違ったことはしても、いけないことは、しない人たちだった。

でも、間違ったことは確かにしたのだ。
それなのに規律に従うことに何の意味がある?
セブルスの左腕が業火にあてられたように熱くなり、袖をまくると、蛇の巻きついた骸骨の刺青が、黒々と光っていた。

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